東京の医療機器開発ベンチャーで正社員として勤務しながら、複数の企業でマーケティング等の業務も担当している蛭田学(ひるた まなぶ)さんは、横浜に住みながらオンラインを活用したフルリモートな働き方で、山形県の企業でマーケティング等の業務に関わっています。
蛭田さんがフルリモートで勤務するのは、山形県米沢市にある株式会社ニューテックシンセイ。ニューテックシンセイは、パソコンやプリンターなど情報通信機器の受託生産をメイン事業として行っている会社です。情報通信機器の金属加工技術を活用し、2年の歳月をかけて開発した『もくロック』というブロック玩具も販売しています。
蛭田さんは、この『もくロック』のマーケティングプランの策定から実行支援まで行っています。
そんなフルリモートな働き方をする蛭田さんに、フルリモートでお話しをお伺いしました。
神奈川県横浜市出身の蛭田さんは、アメリカに8年、バルセロナに2年住んだ経験があり、バルセロナでは経営学の修士を取りました。現在は横浜市に住んでいます。
これまでも数多くのマーケティングプランを手掛けてきている蛭田さんの、現在のメインの仕事は、都内にある医療機器開発ベンチャーでの正社員としての仕事です。他には、別のベンチャー企業の経営者、そしてニューテックシンセイと同様に地方の企業へのアドバイザーなど、あわせて4社の業務に携わっています。
時間を効率的に使い、家族との時間も大切にしながら、1日のうちのおよそ12時間を仕事に費やしているそうです。新型コロナウイルスの流行前から今と同様の働き方をしていて、週1回程度は正社員として勤めている会社に出勤し、それ以外は主に自宅やシェアオフィス等を活用して仕事をしています。
以前から地方企業のサポートに興味があったという蛭田さんは「自分が関わることによって企業の助けになったり、何か変革をもたらすキッカケになったりして、喜んでもらえたら嬉しい」という想いから副業を始めたといいます。
蛭田さんはニューテックシンセイから『もくロック』のマーケティングプランの策定から実行支援まで引き受けることになり、山形県南陽市にある『もくロックの森』を訪れました。
「大自然の中で大事に育った木から『もくロック』が生まれていると消費者が知れば、製品価値はもっと高まると感じました。その世界観も消費者へ届けていきたい」と思ったそうです。
「『もくロック』のマーケティングの面白さは、単純なブロック玩具ということだけではなく、自然由来の材料を使い日本で製造された安心安全の玩具なので、子供だけではなく親に向けた商品だという点です。とてもチャレンジングだと感じました。本当の価値は何なのか?どうやってお客さんに届けたらいいか?を考えるのが面白い」と話す蛭田さんから、パソコンの画面越しでも『もくロック』に対する情熱を感じました。
完全オンラインで仕事を進める中で、定期的に現地に行き、相手と温度感を確かめ合うことの必要性も感じていますが、限られた時間を活用するためにも、これからもオンライン中心で仕事を進めていきたいと考えているといいます。
複数の企業で副業の実績がある蛭田さんは、首都圏と地方での仕事の進め方について、違いも感じていました。
「スピード感の差を感じることはあります。首都圏のスピードだと地方では早いといわれます。場所が変わっても、スピードや仕事の質は変わらないはずなので、どこでも同じレベルで進んでいくことが出来るようになれば、日本はより幸せになるんじゃないか」と課題や希望もあるそうです。
蛭田さんのように、地方の企業とオンラインでつながり、仕事をしていきたいと考える方へのアドバイスも伺いました。
「全力で頼りにしてくれるので、期待値コントロールをして進めていくことが必要になります。客観的な視点や総合力がないと難しいかもしれません。また、アドバイスだけではなく、自分で手を動かして作業できるということも大切になってくる」と教えてくれました。
ニューテックシンセイが製造する『もくロック』は、国内外で展示会などを実施し、お客様に実際に遊んで体感してもらうことで商品の魅力を伝え、販路を拡大してきましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響でネット販売を強化しなければならないという課題が生まれました。
ニューテックシンセイ代表取締役の桒原晃(くわばら あきら)さんが社内で課題解決に奮闘していたところ、『山形県プロフェッショナル人材戦略拠点』から提案を受け、東京の医療機器開発ベンチャーで正社員として勤務しながら、複数の企業の業務も担当している蛭田学さんと出会いました。そこから2年間にわたり蛭田さんと桒原さんの、フルリモートによる『もくロック』のマーケティング業務は続いています。
ニューテックシンセイは、パソコンやプリンターの受注生産を主な事業内容としてきましたが、桒原さんが代表取締役を引き継ぐ頃には事業環境の変化があり、地方で事業を継続していくための策を考えなくてはならない状況になりました。
「米沢らしさや、山形らしさのあるサービスや商品を作ることが出来れば、この土地で事業を継続していく意味がある」と思い、新商品の開発を進める決意をしたと桒原さんは語ります。また、「子供にも喜ばれるものを作りたい」という想いからブロック玩具を作る、という発想が生まれたそうです。
山形県産の木材を使い、これまで培ってきた金属加工技術と機械を活用し、およそ2年の歳月をかけ『もくロック』が完成します。『もくロック』という商品名は、桒原さんのお子さんが名づけました。
やわらかな手触りが心地よく、子供だけではなく大人も夢中になって遊びたくなるような、かわいらしいブロックです。カエデやサクラ、ケヤキといった6種類の無垢材を使用していて、木そのものの色や質感から自然のぬくもりを感じる商品となっています。
ニューテックシンセイは、蛭田さんに『もくロック』のサイト運用方法、WEBやSNSの広告活用などマーケティング全般をトータルで提案してもらうことで、どの媒体を見ても統一感のある世界観で運用ができるようになりました。
届けたいターゲット層へも的確にリーチできるようになり、蛭田さんのアドバイスのおかげで『もくロック』の認知度UPにつながったといいます。サイト訪問者は依頼前の10倍以上となり、それに伴いECサイトでの販売も増加しました。
桒原さんは、完全オンラインで外部の方へ仕事を依頼するのは初めてのことでしたが、抵抗はなかったそうです。
「当時は、完全オンラインで仕事を進めていくことの戸惑いよりも、事業の課題を早く解決したいという思いが先立っていました。実際にオンラインで仕事をしてみると、販売やマーケティングに関することなら同じ場所に居なくても仕事は進められるし、社員を雇うよりも経験豊富な副業人材の方へ仕事を依頼する方が、コスト面でのメリットも大きい」と教えてくれました。
およそ2年間のうちに直接、蛭田さんと会ったのは1回程度。オンラインで密にコミュニケーションが取れているのでデメリットよりも、どこでも仕事ができるというメリットのほうを強く感じているといいます。
ニューテックシンセイにとって、完全オンラインで副業人材とつながり仕事を依頼することは、とてもいい経験になったそうです。これからも蛭田さんへの依頼は継続して『もくロック』をさらに展開していき、他の事業でもマーケティングを依頼したいと計画しています。
桒原さんは「もう一度『もくロック』で海外進出をしたいです。また、情報通信機器の組み立てができるようなロボットの開発もしているので、そのマーケティングも蛭田さんにお願いしたいと考えています。単純作業を得意とする組み立てロボットを多くの企業へ導入出来れば、スタッフの皆さんが創造的な仕事にもっと多くの時間を費やせるようになるのではないか」と、期待しているそうです。
蛭田さん自身も「日本のものを世界に広めていくことに興味があり、現状の働き方でそれが実現できている」と語ります。また「機会があれば、地域の日本酒の経営戦略やマーケティングにも関わっていきたい」と話してくれました。
地域とのつながり方は様々で、実際にその地域へ移住したり、複数の拠点を行き来したり、蛭田さんのように完全オンラインで地方の仕事ができる時代となりました。
地方には、これまでの経験を活かして喜んでもらえる仕事がたくさんあります。
東北・新潟といった地域にとっても、各地にいるプロフェッショナルとつながることが可能となれば、より面白いチャレンジができる環境づくりが進んでいき、その地域で生まれ育った未来を担う人材の流出を防ぐことにもつながっていきます。『もくロック』のように、自社でサービスや商品を開発し販売まで行う企業がもっと増えてくるかもしれません。
すぐに複数拠点で暮らし、働くというのはハードルが高いかもしれませんが、まずはオンラインで地方の企業とつながり、地方へ行く回数を増やし、そして地域に交わっていく。オンラインを活用した「プチ」デュアルライフからスタートしてみませんか。
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